建学の精神(4)ストーリーを生成する建学の精神
建学の精神(3)ストーリーを生成する建学の精神のつづきです。
そして、2001年から2012年まで文化女子大学総合教養系教授兼文化女子大学附属杉並中学校・高等学校校長を務めたのが野原明先生でした。野原先生はコアカリキュラムの先駆的な取り組みを始めました。
野原先生は、これまでの学校教育は《習得型》で、「子どもたちに 与えて させて 見まわる」指導をしてきたが、今後は、子どもたちが「主体的に、前向き」に物事を考え発表する力を身につけられるよう、「子どもたちの 話を聞いて 助けて 任せて 見守る」《活用形》・《探究型》の指導が必要だと考え、この考えに基づいてコアカリキュラムを先生方と議論し、協力して構築していったということです。
この「子どもたちの 話を聞いて 助けて 任せて 見守る」《活用形》・《探究型》の教育こそ<感動の教育>そのもののコアとなります。
コアカリキュラムは、全ての生徒が学ぶべき共通の基礎的な知識やスキルのみならず、生徒が社会で必要な基本的な能力を身につけることを目的としています。
松谷先生は「コアカリキュラムを学内で一丸となって作っていく過程は、今でいうカリキュラムマネジメントです。今でこそ探究が話題になっていますが、これも野原校長時代に先駆けて行っていたわけです。生徒が社会で必要な基本的な能力というのも、今でいう資質・能力に相当します。当時はゆとり教育をとらえ返す時代でした。私たちは、だからといってあの現代化カリキュラムに回帰するというのではなく、もともとその時代から<感動の教育>を進めていましたから、ゆとり教育のポジティブな側面を新たなカタチに進化させたのだと思います。
そして、その頃は、同時に、日本もグローバル化が進み、一方で少子高齢化に突入していました。大学の留学生も増えた時代です。そのような中で、地政学リスクや気候変動リスクもすでに高まりつつあり、SDGsが採択される前に、すでにVUCAの時代になったといわれていました。<多様性>が求められた時代だったのです。
野原先生の後任として校長に就任した私は、この時代をネガティブに捉えるのではなく、むしろどうしたら生徒が自ら幸せな時代を開いていけるのか、そのための教育環境をいかにデザインするのか考えました。それが<感動の教育>の気概だからです。」
こうして、当時教頭だった現校長の青井静男先生をはじめとする先生方と多様性に適合する教育をリサーチし始め、最終的に国際バカロレアのディプロマ教育とBC州(カナダのブリティッシュコロンビア州)の教育のどちらを選択するかまでたどり着いたそうです。
そして、一部の生徒だけではなく、生徒全員が恩恵に浴せる教育を選ぶことが<感動の教育>であると確信して、BC州との教育連携を決め、そこから学内の研修から契約の交渉まで学内一丸となって取り組んだということです。
2015年4月からダブルディプロマコース(以降「DDコース」)を新設。わが国初のカナダ・ブリティッシュコロンビア州公認の海外学校が文化学園大学杉並に誕生しました。同年6月3日、京王プラザホテルで、その認可証授与式のセレモニーが行われました。
このBC州との提携も来年で10年です。最初DDコースは高校だけに設けられていましたが、今日では、そのコースにつながる教育が中学から開始されるようになっています。スタート時からDDコース自体、ICTがなければ教育ができないほど今でいうDXは進んでいます。したがって、<多様性>の教育は、グローバル教育×STEAM教育として拡張しているということです。
生徒がSTEAMを活かして、海外の生徒や多様な団体との出会いを通して、新たな発見と発想を生み出していることは想像に難くありません。そして、その瞬間瞬間に感動が生まれていることも。
松谷先生は、「時代の予測不能な変化に対し、<感動の教育>という変わらぬ教育を核に新しい教育プログラムを今もこれからもどんどん創っていきます。来年度は、また新しい不易流行の教育をお見せすることがでるでしょう。」と語ります。
<感動の教育>という建学の精神が核となって、学校の物語と生徒自身の物語と松谷先生自身の教育物語が生まれています。私立学校の教育は、建学の精神をコアに多彩なストーリーを編集しているといえましょう。