建学の精神(5)AI時代に必要とされる精神

駒沢学園女子中学高等学校校長の土屋登美恵先生は、一般財団法人東京私立中学高等学校協会の常任理事で広報部副部長を務められています。協会の広報部は、東京私立学校教育振興関係予算及び私立学校関係政府予算において私学の要望をとりまとめその運動をする重要な役割を果たしています。

具体的には、私学助成の基本である経常費補助の拡充や保護者負担軽減制度の拡充強化などの要望運動を推進する役割を果たしています。また首都圏を中心とする中学・高校に配布する「私立学校案内」の発行もしています。毎年行われている「東京都私立学校展」の来場者にも配布している冊子です。

さらに、土屋先生は、教育研究所の2つの研修委員でもあります。一つは理事長校長の宿泊研修のプログラムの企画運営実施をする委員のメンバーです。もう一つは、昨年発足したプロジェクト部会の研修を企画運営実施する委員のメンバーです。

前者はウェルビーイングな学校経営の研修であり、後者はウェルビーイングな教師の仕事についての研修をデザインしています。

このように土屋先生は、ご自身の学校の教育の質を向上させ続ける経営をしつつ、東京の私立学校全体の教育と経営の質を持続可能にするべく大いに貢献をしているのです。なぜそのような行動力があるのでしょうか?それは、本シリーズで書き続けているように、普遍的かつ独自の建学の精神を引き受けて、本質的な教育に立ち臨んでいるからです。

その建学の精神について、土屋先生にお話を伺いました。


エピソード:建学の精神を軸に母校の教師になったOGの存在

土屋登美恵先生は、よく宗教科の中村友恵先生と対話をします。というのも、中村先生は、OGであり、母校で坐禅などの行事を通して、駒沢女子が大切にしている「正念(しょうねん)」という言葉の奥深さに魅了され、宗教科の教師になりました。そのため、建学の精神が生徒の内面に染みわたるロールモデルとして学べるからだといいます。

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「正念」とは、同校の教育理念ですが、これは坐禅のことを意味します。中村先生は、理念に行動それ自体を掲げるのはとても興味深いことだと思っています。この二文字が、日々多忙で目の前のことに追われている現代人にとって、何かとても大切な本質的な場所に連れて行ってもらう感覚を呼び覚ますというのです。

中村先生は、土屋先生に、正念について、『「今のこころを一つに止める」と書くように、心はあっちへ行ったりこっちへ行ったり、過去や未来に引っ張られて不安を作ります。姿勢を整え、目を閉じ、「今」この瞬間を味わう、本来の自己に出会うのです。』と語ります。

この話を聴いたときに、土屋先生は、アップルの創業者スティーブ・ジョブズのことを想い出したそうです。ジョブズが大学生のころから駒澤大学の卒業生である曹洞宗の僧侶の乙川弘文(おとがわこうぶん)に導かれて坐禅を行いながら禅の世界を生涯の支えとしたという話です。

1970年代、アメリカ人は、ベトナム戦争で疲弊し、一方で経済の繁栄のため仕事上では過度な競争社会で、人々はストレスを抱え、乙川弘文を日本から招へいした僧侶鈴木俊隆が開いていた坐禅をするセンターを訪れ、日々の生活の心の置き方や自分を見いだすようになっていました。スティーブ・ジョブズもその一人です。

news_sh_24019_05.jpgジョブズが大きな影響を受けた俊隆の本「禅マインド ビギナーズ・マインド」には、「大いなる心は表現するべきものであって、理解するべきものではない。大いなる心とは、探し求めるものではなく、あなたたちがすでに持っているものなのだ」という言葉が刻まれています。

土屋先生がこの話をしたとき、中村先生は、「私たちは、何を不安になっているのだろう。あるがまま、真っ直ぐな心はすでに持っているのです。すでに本来の自分を持っているのです。それを素直にいまここで受け入れ、表現すればよいのです」と語ったそうです。

土屋先生は、「たしかに、そうです。ジョブズもまた、その真っ直ぐな心に導かれ、内面に自己の未来ビジョンをしっかりと見つめ、表現することができたのでしょう。正念という私たちが大切にしている理念が、OGである中村先生や乙川弘文、鈴木俊隆、ジョブズなどが時空を超えて響き合えているのですね」としみじみ語っていました。


(つづく)


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