【研究所ブログ第40回】初任者研修への想い 

今年、5月から夏の合宿にかけて2回初任者研修を行いました。委員の先生方は、同研修会について、一年かけて議論をし、変えるべきところは大胆に変え、変えざるべきところはさらに良質にしています。

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1. スタートビジョン研修 

初任者研修の委員長の更科幸一先生(自由学園学園長)は、「5月の段階では、まずはルールがあるからとかやるべきことを示されたから教育を行っていくのではなく、自分でまずは考えてみることが大事だということがストンと心に落ちてくれることが大事です。そして、考えぬいて悩んだときに対話ができたり助け合うことができる仲間とつながれることがとても大切なのです」と語ります。

したがって、今年は最初の研修タイトルも新たに「スタートビジョン研修」として出発しました。昨年の夏の合宿からOST(オープンスペーステクノロジー)というワールドカフェのようなワークショップを導入しています。参加した初任者の先生方がまずはどんな気持ちで何を考えどうしていきたいかの想いを共有しながら、共通の問いをもっている先生方がそれぞれのチームに分かれて視野を広め視座を深めていくワークショップです。

スタートビジョン研修では、まず自分自身のビジョン及び仲間のビジョンに想いをめぐらすことを大切にしました。そのうえで、私立学校の建学の精神に基づいた教育の基本的な成り立ちや教育の在り方などについての講義を設定しました。

今までのように、知識としての私学教育の講義を受けて終わるというのではなく、私学で教育を実践していく言葉や行いを自分事として受けとめ、仲間と共有しながら、互いの受けとめ方の違いや自分の学校と私学一般の考えとの差異を見つめ、その違いについて自分で考えるところから出発しました。そして、その後研修で出会った仲間と対話をしながら活路を見出していける状況を共に生み出す研修となりました。

2. 2泊3日の宿泊研修

初任者の先生方にとって、5月から7月という3か月間というのは、それぞれの学校で多様な教育活動を通して、モヤモヤしたり辛かったりする時期です。一方でこんな新しいことに挑戦できたとかもっと改善できないかなどの発想も沸いたりしている時期でもあります。

更科先生は、夏の合宿研修についてこう語ります。

「夏は、教育活動の中でいろいろなことを感じたり考えたりしてきたことをたっぷり話し合える時間や心の鎧を外して安心してより添える雰囲気の空間を委員の先生方、プロジェクト部会の学校づくり研究会の先生方、研究所の皆さんと工夫しました。その手法は昨年と同様のOSTベースのワークショップです。学校で自分がやりたいアイデアや企画を持ち寄り、いっしょに考えたいというチームが自然と生まれてくるワークショップです。

同時に3つの講義とフィードバック講義を組み込みました。初日は、Macro領域として<教育は社会をどう変えたのか>について桜井智恵子先生(関西学院大学 人間福祉学部/人間福祉研究科教授)にお願いしました。Mezzo領域として<ワークショップ型授業の仕組み 〜生徒に能動的学習者の資質を見出すために〜>について苅宿俊文先生(青山学院大学社会情報学部プロジェクト教授)にお願いしました。Micro領域として<集団の場で、多様な個に応じる ~生徒理解を関わりに活かして~>について髙橋あつ子先生(早稲田大学教職大学院教授)にお願いしました。参加者は3つの講義から2つ選択して聴講します。

2日めの夕刻には、中間のフィードバックとして<共通講義 私学の教師の世界的視野とこれからの社会>について平方邦行所長(東京私学教育研究所/一般財団法人日本私学教育研究所 所長)にお願いしました。

講義の時間は、全体プログラムの時間の20%でしたが、自分たちとは別角度からのものの見方・考え方・感じ方をどのように受け入れるか深く考えていく大事な情報になりました。

学校を超えて共通の話題やアイデアをシミュレーションしていくことは、日々の仕事の中では共有できない本質的なところまで対話するチャンスになっていましたし、深い絆をつくることにもなったでしょう。

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何より私たちは、初任者の先生方が社会と教育の関係性をしっかり観ることができるようになってほしいとも思い、社会関係についても多角的に考える講義を設定しました。自分たちの教育への想いや生徒へのかかわりは、その背景に社会がかかわっています。

ふだん自分が正しいと思っているあるいは疑問をいだいていていない教育言動を立ち止まって考えたり、仲間と対話したりすることは実はもっとも重要なことだと思っています。

私たちは生徒の生命や学びを守るべくふだんから生徒と共に創意工夫しています。たとえば、日々の「食」は、体の健康、心の健康、良好な人間関係をつくっていくのに深くかかわっています。食は栄養の問題や食糧危機などによる生存に対する不安や格差社会などの問題と結びついています。そんな重要な学びを探究などで行っている一方で、EUでは全面的に禁止している農薬を、日本では平気で使っている状況であることを知らなければどうでしょう。

そのような社会の中で生活していることに対し、何も疑問をもたなければ果たしていろいろな問題を解決しながら自由に生徒と共に生きていくことができるでしょうか。

社会を知るには、いろいろな研究会に参加したり、書物を読んだり、ニュースなどで日々情報を収集して、自分で考え深めていくことが必要です。同時に仲間と対話して、考えることによって社会をどのように観て、どう自分たちは行動していくのか視野を広げていくことも重要です。

子供たちのこれからの社会は、誰かが決めるのではありません。それは、子供たちと共に今の社会をしっかりとらえながらより良き社会の在り方について考えていくことによって見えてくるのだと思っています。」


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