【研究所ブログ第30回】 私学経営研究会 「理事長校長部会」・「教頭部会」 3つのL

この夏、私学経営研究会は恒例の「理事長校長部会」「教頭部会」の宿泊研修を開催します。理事長校長部会では、時代の精神を読み解き、私学経営の不易流行に基づいた先見性・先進性を確認します。教頭部会では、その不易流行のアップデートを実現し成長し続ける組織マネジメントについて語り合います。

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このように、両部会は研修のねらいに違いはありますが、リスクマネジメントや危機管理のための法律に関する研修を行うという点では共通しています。

弁護士の方々と、私学教育に関連する法改正や最近の学校の法化現象に関して、ケースメソッドを中心に学び、情報交換をしていきます。

教育のビジョンや組織マネジメントと「法律の問題」はどう関係するのでしょうか?実は、すでに20世紀末に近代産業社会が豊かさを生み出す一方で、地球環境問題などが世界中の政治経済や人々の生活に悪影響を与えるようになり、そのような社会は「リスク社会」と呼ばれるようになりました。

当初は、学校のリスクは、部活や研修旅行でのケガや事故に対応するものでしたが、21世紀になって、テロや気候変動、経済格差などの影響が学校生活にもおよび、パンデミックによって、感染症対策が学校を直撃し、生命への危機に対する恐怖や対面による人間関係や信頼構築に溝ができ、得体のしれない不安増幅が学校にも蔓延しました。「リスク社会」は他人ごとではなくなったのです。

このことを解消するために、コミュニケーションをするのですが、そのコミュニケーションの前提の信頼関係構築を行うオリエンテーションや合宿などができず、円滑なコミュニケーションができない事態が頻発するようになりました。今までは通用していたルールによる学校組織が、ルール変更を余儀なくされ、その変更の正当性や信頼性、妥当性が、その都度問われることになりました。しかも、コミュニケーション手段が、緊急事態宣言によってオンラインになり、SNSという情感が伝わりにくい情報交換が増えました。そのことが、ちょっとした行き違いで大きな問題に発展するケースがしばしば起こる大きな要因にもなったのは、多くのメディアで取り上げられ記憶に新しいでしょう。

このため、私学の経営を堅固にし、生徒の命を守り、実際に経験しているような予想不能な事態に対し、柔軟に新しい問題解決方法を創る知恵を生み出す教育創造をすることが求められるようになりました。

危機管理をしつつ、リスクテイクをする経営判断が求められるようになったのです。危機管理をミスすれば、すぐに法律的な問題が発生するようになりました。そしてリスクテイクもうまくいかなければ、経営にダメージを与えることになりました。

たとえば、新型コロナウィルス感染者が増えたため、オンライン授業をいつから行うのか判断するとき、ジレンマ問題に直面したのです。当時は、明らかに対面の授業のほうが効果があるので、できるだけオンライン授業は少なくしたいのですが、そのタイミングの判断ミスが、多くの感染者を出してしまうことになりかねません。命と学力のジレンマ問題が多くの学校で頻発しました。

また職員室の教員の多くが感染した場合、授業はどうなるのか、しかもそれが入試の時期に起きたとしたら、入試の運営は誰がするのかなど、世界中の人々が恐怖と不安に襲われているのと同じ状況が現場でも起きていたのです。

今思えば、専門家の判断も実は正解ではありませんでした。そのようないつものルーティンで解決できない状況下にあって、危機管理やリスク回避をどうすればよいのでしょう。経営陣の意思決定が重要になります。また経営陣の意思決定を支える組織も重要な役割を果たします。意思疎通による速やかな情報共有ができる組織マネジメントが必要です。

そして、そのような最善を尽くしても起きてしまう法化現象の時に、速やかに専門家である弁護士などの協力を仰ぐネットワークシステムを日ごろから構築しておかなくてはならなくなったのです。

予測不能な事態は、危機やリスクをもたらします。それを防衛し、回避する意思決定の判断が求められます。

一方で21世紀における予測不能な事態の背景には、イノベーションの促進が表裏一体としてあります。最近では、DXやGXが象徴的なイノベーション技術でしょう。コンピュータ社会、AI社会は、ますます危機管理とリスクマネジメントが必要になりますが、同時にそのイノベーションを教育に活用し新しい学びを創造するリスクテイクも経営者は意思決定しなくてはなりません。

ここ最近の予測不能な円安の事態に対し、学費をどこまで上げられるのか、経営者は、事務局長と会計士など専門知識を有した人材と協議し、理事会などで決定する適正手続きをとらなくてはなりません。

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そのときいつも迫られるのは「意思決定」の判断です。正解はありません。しかし、長い歳月経営を支えてきた建学の精神に従い的確な意思決定をしなくてはなりません。

この建学の精神に基づいて、時代の変動に合わせて、意思決定のために、判断基準を調整していくにはどうしたらよいのでしょう。それには法的思考を活用するリーガルマインド(Legal Mind)とその法的思考の基盤になるリベラルアーツ(Liberal Arts)が重要になると、国際基督教大学の松田浩道教授は語ります。

今まで研修会で行われてきた分科会での情報交換では、リーガルマインドやリベラルアーツという視点は自覚してきませんでしたが、理事長校長や教頭が対話するときには、それぞれの建学の精神が軸になっています。その背景には深い法的思考や教養が蓄積されています。

これまでの研修では、専門家による実務法の運用や適用にうまくつながる発想が展開されてきました。しかし、今後は図にあるように3つのLを回すことの意味を自覚することによって教育創造を行い、その教育創造を実現する成長する組織を作ることにさらに寄与できる研修としてアップデートしていきます。


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