【研究所ブログ第4回】初任者研修の新しい仕掛け
今年8月22日~24日、2泊3日で行われた初任者研修では、委員の先生方は、多様な新しい仕掛けを織り込みました。そのうちの2つについてご紹介します。1つは、講義のテーマを3つに分けました。マクロとメゾ、ミクロの3種類です。その中から2つ選択して参加します。「選ぶ」という行為によって、先生方の内面に素直に思考が始まり、感情が生まれます。そのような内的な動きが自然と生まれることを意図していました。参加された先生方のアンケート回答から幾つかご紹介します。
●現在の教育の在り方を見直す契機となりました。日々を過ごしていると、目の前のことに手一杯でつい思考停止になりがちですが、改めて「やっぱりこれはおかしいのでは」と考える視点の大切さを痛感しています。特に能力主義の弊害は現在の教育と社会に深く根付いたもので中々変えていくのは難しいとは思いますが、それを疑うような思考力を身に着けさせる指導をしていきたいと思いました。
●ワークショップ、とは何なのかもわからなかったですが、実際に体験してみて、座学よりも人の顔を見る時間があり、相手のことを知ろうとするようになると感じました。教員1年目で、学級経営に悩んでいたので、早速ワークショップを取り入れていきたいと思います。
●UDL(ユニバーサル・デザイン・ラーニング)は普通の講義型に近いような授業でも完全ではなくとも再現できるということが印象に残りました。もちろん理想は生徒たち自身の手で学べる様にすることではありますが、今授業を担当している生徒たちの状況だとなかなかグループワークなどはできません。なので、講義という形を完全に崩して自由にはできませんが、少しずつ取り入れてみようと思いました。
様々な問題意識が素直に表現されています。そして、鳥の目(マクロ)、虫の目(ミクロ)、コウモリの目(発想の転換)、魚の目(時代の流れを認識)という視点も生まれているのが了解できます。
もう1つの仕掛けは、OST(オープン・ステージ・テクノロジー)です。このOSTは、大まかなテーマについて関心や情熱を持つ関係者が一堂に会し、自らが解決したい問題や議論したい課題を提案したうえで、自主的に話し合いを進める手法で、自分のアンコンシャスバイアスに気づく余白としてゆったりとした時間や空間をデザインします。
また、自分で意思決定してテーマを選択しますから、もし共通するテーマがどのグループにもない場合、一人であちらこちら見て回りながら探究してもよいし、途中で新たなテーマが見つかったら、グループを移動してもよいのです。OSTでは、前者のロールプレイを「蝶」、後者を「蜜蜂」と呼んでいます。アンケート回答から幾つかご紹介します。
●色々な先生方の考えに触れることが出来、非常に刺激になりました。特に「教育とはなにか」というテーマのグループでは、教育とはどうあるべきかをここまで深く突っ込んで話し合う機会は初めてであり、なるほどと思わされることばかりでした。教えるではなく、学ぶ。指導者ではなく伴走者、という点を強く意識していきたいです。
●本当の意味で自由な議論ができた気がする。どうにかして、対生徒(授業など)はもちろん、対教員、可能であれば対保護者にも適応させられたらなと思った。
●教育について、深く考えて葛藤して良いのだと思えたことが1番の収穫でした。慌ただしい日々の中で、目の前のことをこなすので精一杯の自分が悔しく「仕方ない」と思っていました。今後、経験を重ねるにつれて「教育について考える」こととじっくり向き合いたいです。今、そのきっかけをいただけて本当に良かったと思います。
●通信制高校の話。様々な学校のルールや文化。教員のやりがいと辛いこと、悩み。生徒との信頼関係。特に「生徒との信頼関係」については深掘りできました。そもそも信頼とは何か、信頼できる先生の共通点とは何か、などをまさにオープンなスペースで語り合い、多くの気付きを得られました。
●出会い、ゆっくり、たっぷり、じっくり、まざり、気づき、振り返る。このゆとりを持った学びかたは自分には合っていた。自分で問うた「きょういくって何?」に対して対話でき非常に刺激的だった。自分1人で考えるのには限界があり、また時間を気にせずに一緒に考える人がいなかったため非常によい機会をいただいた。背景がそれぞれ違う方々から出るコトバは全て発見や新しい道がどんどん拓けていくようで、自分の常識が常識ではなくなった。答えは出さないという前提のもと、それぞれがその時思ったコトバを言い、聞いた人は悩み葛藤しひらめき、納得していた。このような場(わ)を自分でも作りたい。
●自分のモヤモヤしていること、関心のあることに興味を持ち、話したいと思ってくれる仲間がこんなにいるのかと驚いた。この機会がなければ1人でモヤモヤしたままだったのかと思うと、本当に貴重な体験ができました。ありがとうございます。与えられたテーマではなく我々の中から生まれたテーマなので、とても話しやすく、時間もあっという間に過ぎていった、まだまだ話し足りないというほどに。OSTを自分のクラスでも導入していき、子どもたちが日々考えていることや感じていることを共感してくれる仲間づくりに役立てたい。
これらは、アンケート回答の一部ですが、多くの参加者が同じような雰囲気を感じていました。研修終盤には、このように教育現場での問題や生徒及び同僚との信頼関係など、教育の本質を見出す「心の目」がそれぞれの内面に開かれているのを感じていたことと思います。
★日程